ふしぎな鈴




「校長先生と桜の鈴」


しかし、どこで聞いたのか、校長先生には思い出せませんでした。

「リーン・リーン・コロンころん」

「リーン・リーン・コロンころん」

何度も鈴の音を聞いているうちに、校長先生の頭の中に、

遠い昔のある光景がぼんやり浮かんできました。

大きなおやしき…

たくさんの木が植えてある広い庭…

庭にやってくるいろいろな小鳥…

そして庭で遊んでいるかわいい女の子。

遠い昔のことが、少しずつ少しずつ校長先生の頭の中によみがえってきたのです。

みごとに咲いた桜の花の下で、「この鈴を大切にするのだよ」といって、

娘に鈴をわたしている光景が浮かんできたのです。

それだけではありません。

娘とすごした鎌倉の様子が、走馬灯のように校長先生の頭の中にうかんできたのです。

「おとうさま、おとうさまー」とよぶ娘の声まで、校長先生ははっきり思い出しました。

「やはり、かなは私の娘だったのだ」

校長先生はそう確信しました。

「しかし、かなはまだ幼い。遠い昔のことを話したところで、どうなるものでもない。

かなもいつか私のことを知るだろう。その日がくるまで、そっとしておこう」

校長先生は、そう心に決めました。



「かな、いいものをあげよう。桜の鈴だよ。ほら、良い音がするだろう」

「リーン・リーン・リーン」

校長先生が鈴をふると、鈴虫が鳴いているような音色が、

あたりにひびきわたりました。

「かな、この鈴をふるとね、花や小鳥とお話ができるのだよ。

でも、本当にやさしい心をもっている時しか、話をすることはできない。

かなが今のようにやさしい心をずっともち続けることができれば、

かなが好きなお月さまや星とも、話ができるようになるよ」

「わぁ、うれしいなぁ。もしかして…もしかして…

その鈴は小桜姫さまが大切にしていた鈴ですか?」

「どうして、かなは桜の鈴のことを知っているの?」

つづく

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