ふしぎな鈴




「朝顔のエスカレーター」


それから一年後。

残暑のきびしい九月五日のことでした。

大好きなおとうさんが、心臓病で急になくなってしまいました。

しんきんこうそくでした。

「かな、おじいちゃんとおばあちゃんに、かわいがってもらったことを、

いつまでも忘れないようにね。元気で明るく生きていくのだよ」

おとうさんはいいました。

そして、桃の実の形をした鈴を、かなにくれました。

「リーン・リーン・コロンころん」

なんともいえないいい音がします。

「この鈴はね、鎌倉の和尚さんからいただいた鈴だよ。

この春、丘へ桜を見に行った時、小桜姫の話をしてあげたね。

おぼえているかな?この鈴は、小桜姫が大切にしていた鈴の一つだよ。

小桜姫はね、二つの鈴を大切にしていたのだよ。

もう一つの鈴はね・・・」

ここまで話すと、おとうさんは安心したのか、かなの手をしっかりにぎりました。

「かな、この鈴をいつまでも大切にするのだよ」

こういうと、おとうさんは静かに息をひきとりました。

時間がたつにつれ、おとうさんの体が、だんだんに冷たくなっていきました。

「とうちゃん、とうちゃん。目をあけて。ねえ、とうちゃん、おきて・・・」

かなはおとうさんの体にしがみつき、体をゆすりました。

さっきまで元気でいたおとうさんが、急になくなってしまうなんて、かなには信じられませんでした。

「かな、おとうさんのそばで、少しお休み」

おかあさんにいわれ、かなはおとうさんのそばで休みました。

かなはおとうさんの大きな手に、自分の手をそっと重ねました。

すると、おとうさんとすごした六年間が、なつかしく思い出されました。

おとうさんと沼へおにやんまや銀やんまをとりにいったこと、

庭できあげはや黒あげはをとったことが、

まるで昨日のことのように、なつかしく思いだされました。

「やさしいとうちゃんだった。私はとうちゃんが大好き」

かなは、心の中で何度もそうつぶやきました。



おとうさんがなくなった夜のことです。

「リーン・リーン・コロンころん」

「リーン・リーン・コロンころん」

誰が鈴をふっているのでしょうか。

どこからか鈴の音が聞こえてきました。

まっくらな部屋の中で、柱時計の上だけが、明るくきらきら輝いています。

よくみると、黄金色の鳥が、柱時計の上にとまっています。

みたことのない、美しい鳥でした。




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